オリジナル小説

オリジナル小説 エンジェルゲート第3章ー6

エンジェルゲートサムネ

「増田さん、これなんです?」

「ああ、これはヘッドホンだよ」

 イヤホン売り場を二人であれこれ見ていると、ミカが不思議そうな顔をして箱に入った商品を手に持つ。黒色の両耳に当てる対応のステレオフォンだった。ミカは聞き慣れない言葉に対して、

「ヘッドホン?」

「ああ。レミが今使ってるような耳に差し込むのをイヤホン。で、これみたいに両耳に当てるやつをヘッドフォンっていうんだ。なんか昔は両耳載頭型イヤホンってのに分類されてたらしいよ」

 自分の知っている事だとよく話す男増田輝希。だがそんなうんちくも、

「……よし、つまりでかいイヤホンですね」

「……まあ、そうだね」

 60秒以上の説明は聞いていられない女ミカ、彼女の前では特に意味無し。イヤホンの大きい版という事で彼女の頭の中では解決がついた。

「じゃあミカちゃんの新しいイヤホンこれでいいじゃないですか。でかいし、黒いし、レミちゃん腹黒いし」

「……腹黒い、かは分かんないけど確かにレミは黒が合いそうだな」

 レミのイメージカラー、といわれればやはり黒だろう。黒髪、褐色肌という容姿の影響もあるのかもしれない。それと彼女の少女にしては大人びた雰囲気、冷静な態度が落ち着いた色やシックなカラーを連想させるのだろう。  

「でもヘッドホンてさ音漏れが結構するし、近くで聴かれるとうるさいかもよ」

「音漏れ?」

「イヤホンからさ音が漏れるんだよ。レミの聞いてる音楽が周りに聞こえてくるんだよ」

「ああ、それは嫌ですね。だってレミちゃんの聴く曲って」

 ミカは音漏れの意味がわかり露骨に嫌な顔をした。そして眉をひそめたまま言葉を続ける。

『真っ暗な家に慣れた小学2年生』

「とか」

『この町を抜け出すにはもう金しかねえ』

「やら聞こえてくるんですよね」

「彼女はどこに向かってるんだよ」

 輝希はネットのミュージックストアから定額料金で音楽をダウンロードし放題にしてある。そしてレミにもそこから好きな曲をダウンロードしていいと言ってあったのだが……。それから1ヶ月、随分と音楽の趣味が偏ってきていたようだな。どうやらヒップホップ調の曲ばかり聴いているようだ。ミカは引き攣った顔をしながら、

「え、増田さんの教育の賜物でしょう」

「彼女をBボーイに育てた覚えはありません」

 というか本当に意外だな。もっと大人っぽい落ち着いた曲を好むかと考えていたのだが。と、輝希はレミのまた意外な一面を知ったのだった。ミカは黒いステレオフォンを元の位置に戻しながら、

「まあ、ならこれはやめますか。普通のイヤホンにしましょう」

「そうだな、女の子に似合う形ので、落ち着いた感じの色のを探すか」

 案外前途の事もあるしレミは黒等の色はあまり好まないかもしれない。しかしこれはあくまで輝希からのプレゼントだ。ならあれこれ推測するより、自分がレミに似合う、彼女に付けて欲しいと思える物を渡すのもいいのではないか、なんて事を歩きながら彼は思うのだ。

 そう考えてあれこれ見てまわっていると不意に、

「いらっしゃいませー」

 横から声が聞こえた。中年の黒ブチ目がねをかけた恰幅の良い、マサシ電気の作業着を羽織った小島という男だった。格好から店員である事は間違いない。彼は笑顔を浮かべたまま、

「何かお探しでしょうか?」

「あ、えと新しいイヤホンを買おうと思って」

「そうなんですか、音質、デザイン、付け心地、色々と重視する部分ございますがどのような物がご希望ですか?」

 ミカとあれこれ話ながら長く売り場にいたからだろうか、見かねて声をかけてくれたらしい。そして彼のその態度には親切心が感じられた。せっかくだしこの人のオススメも聞いてみようかな。輝希は少し思考した上で、

「あー、デザインかな。女の子に似合うのを探してるんですが。もちろん使用感もいいやつで」

「そうですか。そちらの彼女さんに差し上げるんですね」

「へ?」

 丁寧な対応。と思いきやいきなり手榴弾を放って来た。いや、まあ普通なら『いや、違いますって』と照れながらどこか嬉し恥ずかしい気持ちになるものだろう。しかしその勘違いされた相手はあのミカ。輝希の親族を言われるだけで体調を壊す女。彼女と勘違いなんてされたら一体何が起きるのだろうか。

ABOUT ME
マーティー木下@web漫画家
web漫画家です。 両親が詐欺被害に遭い、全てのお金と職を失いました。 3億円分程の資産を失いました。 借金は800万円程あります。 漫画が好きです。コンビニも好きです。
こちらもよろしくお願いします
エンジェルゲートサムネ オリジナル小説

オリジナル小説 エンジェルゲート第2章ー19

2023年2月1日
3億円詐欺られたweb漫画家・マーティー木下の部屋
「でもホント美味しいです。是非今度教えてもらいたいですっ」  麻婆ナスを食べながら笑顔で話すミカ。ちなみに今料理に手をつけているのはこの食いしん坊だけ、蛍は輝希の母親までい …
no image 伝説の詩人・雪平重然の自由詩集

歴史の闇 平安詩人バトルロワイヤルで命を落とした伝説の詩人・雪平重然の自由詩集10

2024年4月8日
3億円詐欺られたweb漫画家・マーティー木下の部屋
※この記事はフィクションです。 平安詩人バトルロワイヤルとは 平安詩人バトルロワイヤルとは 和歌全盛期に行われた最強の …
オリジナル小説

オリジナル小説 ボラ魂4−15

2024年10月6日
3億円詐欺られたweb漫画家・マーティー木下の部屋
 二人の意見を聞いて岡崎達の方を向き直す真子。ホラ見ろ。といった様子で、 「っていうことよ。だからこれ以上アンタ達に付き合うつもりはないわ。ほら行こう二人とも」  ジ …
エンジェルゲートサムネ オリジナル小説

オリジナル小説 エンジェルゲート第2章ー11

2023年1月30日
3億円詐欺られたweb漫画家・マーティー木下の部屋
「さて、レミ君、増田君は行ったかね?」 「はい、して話というのは?」  輝希の気配が消えた事を察した鈴木。先程よりも幾分か低めの声で、 「うむ、まあ仕事の話とは …
no image 伝説の詩人・雪平重然の自由詩集

歴史の闇 平安詩人バトルロワイヤルで命を落とした伝説の詩人・雪平重然の自由詩集3

2024年4月8日
3億円詐欺られたweb漫画家・マーティー木下の部屋
※この記事はフィクションです。 平安詩人バトルロワイヤルとは 平安詩人バトルロワイヤルとは 和歌全盛期に行われた最強の …
エンジェルゲートサムネ オリジナル小説

オリジナル小説 エンジェルゲート第4章ー5

2023年2月14日
3億円詐欺られたweb漫画家・マーティー木下の部屋
「うん、僕もだよ」  本当に不思議な感覚だった。いつもは彼女が隣にいる事に落ち着きさえ覚えるのに。今はこんなにもドキドキしている。でもそれは悪い意味なんかじゃない。心が熱く …
オリジナル小説

無料オリジナル小説 ボラ魂2ー10

2023年5月17日
3億円詐欺られたweb漫画家・マーティー木下の部屋
「まあね〜。ちなみに楢汐ならしお高校からきたんだけどさ」 「なっ、超名門スポーツ校じゃないですか!?」  楢汐市立楢汐高等学校。他県にある高等学校。スポーツに力を入れ …
エンジェルゲートサムネ オリジナル小説

オリジナル小説 エンジェルゲート第1章ー14

2023年1月25日
3億円詐欺られたweb漫画家・マーティー木下の部屋
うん。こんな気持ちでは彼女達を送り出せそうにない。ならばせめて彼女達が困っているのならば助けてやるべきだろう、と彼は考える。 「はあ……仕方ないなぁ。いいよ泊まっていきなよ …
エンジェルゲートサムネ オリジナル小説

オリジナル小説 エンジェルゲート第4章ー7

2023年2月16日
3億円詐欺られたweb漫画家・マーティー木下の部屋
「……じゃあ次、」  そう言い彼女はまたニッコリ笑った。そして、 「次はミカちゃん」  薄桃色の髪をした天使の名を挙げた。 「あんな明るくて可愛い子なんて …

COMMENT

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です