オリジナル小説

オリジナル小説 エンジェルゲート第4章ー3

エンジェルゲートサムネ

「ミカっ、二人はどこに行くと言っていた!?」

「ええ!? そこまでは聞いてませんよ!」

 いまだにたっぷりマーガリンを塗りたくっているミカ。レミはそんな彼女に、

「仕方ない! 自分たちで探すしかないな! レミ行くぞ!」

 レミはマーガリンを塗りたくるスプーンを持つ方のミカの手を鷲掴みにする。

「ちょっと待って下さい! 一体何が!?」

 仕方なくこれ以上の上塗りはやめたミカ。すでにパンの上には2cmぐらいマーガリンが積もっていたが。

「いいからついて来い! 戦闘になったらお前がいた方が有利だ!」

 グイッとミカの身体を引っ張るレミ。ミカは観念したらしくパンを食べながら、

「戦闘!? 緊急事態ですか!? わかりました! いきましょう!」

「ああ!」

 そして二人の天使は翼もなく宙を舞ったのだった。

          ★

 あの事故の日をやり直す。輝希はそう彼女に誘われた。しかしそれは不可解な事だった。

 だって蛍はあの日、事故があった事を知らないはずなんだから。

 レミとミカは確かに言っていた。あの日、輝希が生きているのか、死んでいるのか分からなかったので記憶を改ざんしたと。だから事故の事を覚えているのは僕だけだと。なのに彼女は覚えていたのだ。

 あの日と同じ待ち合わせ時間を指定してきた蛍、そして彼女はやはり同じ時間に待ち合わせ場所に現れて、

「おまたせ」

 そう言っていつもの少年みたいな笑顔ではなく、あの時のような女の子らしい表情をみせるのだ。

 そして格好もやはり、ふんわりとしたラインの淡い黄色のボーダーニット、それとあまり見た事のないスカート姿(サーキュラースカートと言われるものだろう)、バックだって持ち歩かない方が多いのに今日はいつものそれより大きく可愛らしい物を持ち合わせている。

 とあの日と全く同じ格好をしていた。

「違う」

「何か言った輝希?」

 でも輝希にはわかったのだ。

 これは新しく買ったものだと。だって彼の記憶が正しければ、

 あの日、彼女が着ていたものは僕の血で汚れてしまっているはずだから。それに、

「蛍、どこかやっぱり調子が悪いの?」

「え? なんでそう思うの?」

 いくら見た目、表情、時間、様々なものをあの日と一緒にしても輝希には分かる。彼女はどこかおかしい。例えるならば彼女が風邪の日に無理矢理学校に来た時、それを数倍酷くした様な感じがした。輝希は堪らず、

「だって顔色も悪いし、何か様子がおかしいよ」

 輝希は嫌な予感が頭をよぎる。こんな彼女をあの日のように連れ回す事など出来ない。輝希は帰るように促すが、

「ふふ、やっぱ輝ちゃんすごいな、化粧なんかじゃ誤摩化せないな」

 彼女はいつもの少年の笑顔でもなく、あの日の少女みたいな笑顔でもない、どこか吹っ切れた笑顔を見せた。たしかにいつもはナチュラルメイクな彼女の肌が今日は初めてケバく感じた。

「昨日も調子悪そうだったしさ、もう帰ろう? ほら、身体が治ってからまたいくらでも来ればいいんだし」

 依然と態度を崩さない蛍。しかし彼女は自分で体調が悪い事を遠回しながらに認めたのだ。ならばここは男として絶対に譲れない。例え彼女が行きたいといってもだ。しかし、

「ううん、よくなんてならないの」

「え?」

 思わず耳を疑う。だが彼女の顔は真剣そのもの。そして、彼女は今にも泣き出しそうな表情でこう言ったのだった。

「輝ちゃん、これは私の最後のお願いなの。だから聞いて下さい」

 最後のお願い。そんな言葉を普段使おうものならば輝希は怒っていただろう。例え冗談だとしても。もう二度と使わないでくれ。そんな事を怒りと悲しみに満ちた顔で言ったはずだ。

「ね?」

 でも、その無理にでも、無理にでもいつもの表情を作ろうとする彼女からは、本当に最期になってしまうじゃないか、そんな雰囲気さえでていて。

「うん、わかったよ」

 気がついたら僕はそう言っていた。

ABOUT ME
マーティー木下@web漫画家
web漫画家です。 両親が詐欺被害に遭い、全てのお金と職を失いました。 3億円分程の資産を失いました。 借金は800万円程あります。 漫画が好きです。コンビニも好きです。
こちらもよろしくお願いします
エンジェルゲートサムネ オリジナル小説

オリジナル小説 エンジェルゲート第1章ー16

2023年1月25日
3億円詐欺られたweb漫画家・マーティー木下の部屋
「ぶ〜。私は絶対レミちゃん狙いだと思ったんだけどな〜」 「僕はミカも可愛いと思っているよ」  なんだ〜、といった様子で頬を膨らませるミカ。そんな彼女に対して輝希は優し …
エンジェルゲートサムネ オリジナル小説

オリジナル小説 エンジェルゲート第1章ー12

2023年1月25日
3億円詐欺られたweb漫画家・マーティー木下の部屋
「え? それ、どういう事なの?」  輝希を見下ろし奇妙な事を言い出すレミ。すると彼女の代わりにレミが輝希を見つめて、 「ふむ、昨日の事は緊急事態だったからな。だから後 …
エンジェルゲートサムネ オリジナル小説

オリジナル小説 エンジェルゲート第3章ー8

2023年2月6日
3億円詐欺られたweb漫画家・マーティー木下の部屋
「よし、じゃあこれ買って来るよ、ミカ」 「あれ増田さんもう決まったんですか」 「ああ、レジに行って来るからさ、ミカはこの場で待っててくれないか」  当たり前のよ …
エンジェルゲートサムネ オリジナル小説

オリジナル小説 エンジェルゲート第1章ー11

2023年1月25日
3億円詐欺られたweb漫画家・マーティー木下の部屋
「というかさ、仮に死んでたらその状態でもこうやって身体が普通に動いてるなんて事があるの?」 「ふむ、まあ割と簡単に可能な事だぞ。例えば死んだ肉体に一度離れた魂をいれたとする …
オリジナル小説

無料オリジナル小説 ボラ魂 1ー4

2023年4月22日
3億円詐欺られたweb漫画家・マーティー木下の部屋
        ★  美咲高校から、徒歩十五分程の住宅街。グレー色の一軒家。洋式二階建て。中々立派。真子の家。 「ただいま……」  学校から走り続けた真子。疲労 …
オリジナル小説

オリジナル小説 ボラ魂4−16 10億円詐欺被害者の書いた小説

2024年10月13日
3億円詐欺られたweb漫画家・マーティー木下の部屋
そう言ってガッツポーズ。そして立ち上がり真子をビシッ! と右手で指差しながら、 「ふっ。真木っ! お前の暴虐もこれまでだぜっ! 今日 …
エンジェルゲートサムネ オリジナル小説

オリジナル小説 エンジェルゲート第2章ー2

2023年1月26日
3億円詐欺られたweb漫画家・マーティー木下の部屋
「うむ」  と、いきなりチクワの声はそんな事を言ったのだ。レミは不思議なその練り物から目を離して、輝希を見上げて、 「増田マスター、おかえり」 「ただいま。で何 …
no image 伝説の詩人・雪平重然の自由詩集

歴史の闇 平安詩人バトルロワイヤルで命を落とした伝説の詩人・雪平重然の自由詩集11

2024年4月8日
3億円詐欺られたweb漫画家・マーティー木下の部屋
※この記事はフィクションです。 平安詩人バトルロワイヤルとは 平安詩人バトルロワイヤルとは 和歌全盛期に行われた最強の …

COMMENT

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です