「(ムカっ)まあ、確かにしつこい勧誘はなくなりそうですけどね……」
『だろ〜?』
「でも」
『でも?』
「それじゃ本末転倒すぎるだろぉ!! ばかぁ!!」
ピッ! ガチャン!!!
例の如く電話を切って、乱暴に充電器へ。
「はぁ〜、ったく、あの先輩は〜。これじゃあ、こっちの気分も萎える一方だっての〜」
プルルルッ! プルルルッ!
三回目の呼び出しが鳴った。
「たくっ、いいかげんにしろぉ〜!」
真子は廊下を駆けて、リビングから玄関へ猛ダッシュ。スライディングで、親機の電話回線をブチ抜く。呼び出し音は完全に消えた。
「ふぅ〜、これでよしっと」
「真子〜。さっきからうるさいよ。何してるの〜?」
居間から母の声。どうやらまる聞こえだったらしい。
「ごめーん。しつこいセールスからの電話だったから。もう大丈夫だから〜」
「そ〜う? ならいいけど」
適当に言って誤摩化す。そしてリビングの方へ歩いていく。
「まあ、めんどくさいって意味では、間違ってないよね」
ピンポーン!
「ん?」
インターホンのよく響く音が、来客を告げた。真子は思わず玄関を振り向く。
「宅配便かな?」
小走りで玄関に向かう。洋式の小じゃれた広い玄関だ。そして、そのドアを開くと、
ガチャ!
「ようっ真子」
「なっ、先輩!」
そこには実がいた。服装はシングルライダースジャケットに、オーバーパンツ。共に黒色。屈託のない笑顔で片手を挙げていた。
「なんで家知ってるんですか!?」
「え? 担任から名簿盗んだ」
「なにさらっと犯罪してるんですかっ!!」
「まあ気にすんなよっ。別に悪用するわけじゃないし。ただ勧誘に使うだけだから」
「その勧誘がヤダなんですよっ」
「大丈夫だって〜。架空請求とか来る訳じゃないし〜。て言うか、お前そのパジャマ幼いな〜」
ニヤニヤ顔の実。ピンクの水玉模様パジャマを見ながら言う。
「なっ、好きなんだからいいでしょ!? そういう先輩だって、カッコつけたつもりでしょうけど、全然似合ってませんからね!!」
「あ〜、指摘されて照れてる〜。気持ち悪い〜」
「こっのぉ〜〜」
「真子〜、さっきから誰と喋ってるの?」
奥の方から母の声。
「はっ、ママっ! 気にしなくていいよ! 変な小さいのを追い返してるだけだからっ!」
「ひどくね!? ネズミ扱いかよ!?」
「さっきから、うるさいわね〜……あら? はじめてみる子ね〜」
願いも悲しく母の登場。真子はややこしくなる予感が、すごくした。
「はじめまして〜、真子の先輩の椎名です!」
「元気でカワイイ子ね〜。あらっ、もしかして、真子のコレ(彼氏)?」
右手の親指を立てて、彼氏サインを作る母。すかさず真子は右手を握りしめ親指を下に向け、
「違うって、こっち(デス)だよっ」
「いや、どっちだよそれ!?」
「もうっ、真子ったら。椎名君に失礼でしょ」
「そうですよね!? ほんと真子は俺に冷たくて! あれっ、てかおばさんは普通に胸あるな」
「なっ、こっちを哀れむ目でみるなぁ!!」
「真子っ!! 椎名君は先輩でしょ! ちゃんと敬語を使いなさい!」
「そうだぞ、敬え! 敬え!」
「うぅ〜もう! ややこしくなるから、ママはちょっとあっち行ってて!」
「あっ、ちょっと、真子」
強引に背中を押して、居間に誘導。これ以上話をめんどくされたら堪ったもんじゃない。
「はぁ〜もう」
「いや〜お疲れっ」
居間から戻って来た真子。屈託のない笑顔がお出迎えだった。
「先輩が来たから疲れたんですよっ!」
「まあ、いいじゃん。そんなことは。それよりボランティアやろうぜ」
「そんなコンビニ行こうぜ。みたいなノリで言われてもやりませんよ!」
「え? じゃあ、俺ここまで来た意味ないじゃん?」
「知らないですよ! 勝手にきたんですから!」
「そんな〜頼むよ〜〜」
「知りませんっ。早く帰って下さい!」
「だからぁ〜頼むって、言ってんだろぉ! この貧乳がぁ!!」
「ふにぇあ!!」
痺れを切らした実。なぜか真子に抱きつく。脇腹をがっちりロックされた。突然の奇行。真子は激しく動揺。裏返った変な声が出た。ちなみに顔は真っ赤だ。
「は、離せバカぁ!!」
「嫌だ!」
「子供かよ!!」
「なんとでも言えっ! 入ってくれるまで、離さないからなっ!」
「このっ〜〜、いい加減に」
抱きつく実の右腕。それを真子は無理矢理に身体から剥がす。さらに両腕で固定。そして体勢を整えて、
「しろぉお!!」
ズドーン!!!! と見事な一本背負いが決まった。
「ぐおぉお〜〜!! 背中がぁぁ!!! ヒィイィィィイ!!!」
床に叩き付けられた実。とてつもない痛み。猛スピードで地面を這い回る。真子は赤面状態。乱れた呼吸を直しながら、
「はぁはぁ。色んなトコ触ってたし、全くもうっ」
「ヒィイィイイ!! 痛いぃいぃぃ!! え? 触られて困るようなものあったか?」
「ムっ!!」
ズン!! と顔面近くに踏みつけ。
「うぉおお!! 今ぜったい顔ねらっただろぉお!!?」
「う〜〜、この人はもう、ホントに〜〜……はぁあぁ〜〜〜、ったくもう……わかりましたよ」