「ん?」
意味が分からず思案する真子。すると左側から小声で千佳子が、
「ほら、真子だけは全員と知り合いっていう設定だから、率先して話を振った方がいいんじゃない?」
「え? ああ、そういう意味か。ごめんごめん」
確かに設定上ここの全員と面識があるのは私だけだな。と真子は状況を再認識。あれ? 別に設定じゃなくてもそうじゃん。とも思ったが今はそんな事はどうでもよかった。真子はコホンと咳払いを一回して不自然な演技で、
「え、えっと……遅かったじゃん、何かトラブルでもあったの?」
「いや〜誰を真木狙いにするか押しつけあってたらーーごめんなんでもない。ただクソしてただけだよ」
「嘘つけ。今なんか言いかけたぞクソ野郎」
「いや〜マジなんでもねえし〜。なあお前等〜?」
「そうそう〜。挙げ句には乱闘が起きたとかそんな事は全然ねえし〜」
「ああ、最終的に俺の肋骨が逝きかけたとかマジ事実無根だし」
「死闘をするほど嫌なのか……まあ何でもいいけどさ」
裏で散々な扱いを受けていた真子。まあ別にこいつらに好かれても意味ないよな。と割り切って怒りを抑える。岡崎は特に悪びれた様子もなく、
「そうそう。別にそんなんどうでもいいって。それより今日は合コンだぜ〜。ヒュ〜!」
「うん。そうだね」
「だろ? だからそこの可愛い水澄と葉月が誰なのか紹介してくれよ。俺達は何も知らないわけなんだからさ」
「今メチャクチャ名字言った気がしたけど?」
テンションが高まり過ぎた岡崎。思わず初対面の設定なのに二人の名字を言ってしまう。ヤベェ。岡崎はそう思い激しくテンパりながら、
「は〜? バカ言ってねぇしバ〜カ。マジ言ってねぇし」
「バカバカ言い過ぎよバカ」
「いやいやお前の方が言ってるし〜。そういうのはマジいいから紹介しろだし〜」
顔面をブン殴りたいほど憎たらしい顔をする岡崎。だがイチイチ相手にしていても疲れるだけだ。そう自分に言い聞かせて真子は沸き上がる怒りを抑えながら、
「はいはい。解りましたよ。この二人はね……え〜と、」
そこで言葉に詰まる真子。ん? そう言えばこの二人は何て説明すればいいんだ? と困惑してしまう。すると右前から柚菜の左腕が差し出されてきた。その手にはクッリプボード。完全に読書に没頭したかと思っていたがちゃんと場の様子も見ていたようだ。柚菜は本に目を向けたまま、
「真子。これを使いなさい」
「あ、はい。どうもです」
そう言いクッリプボードを受け取る真子。そこにはその他の設定みたいなものが書かれていた。真子は内容をよく見ないまま、
「え〜と、この二人は私の友達で “私立遺伝仕組人間学園”の美子と千佳子ーーってなんだこれっ!?」
「あは〜。何だか私達すごいトコに進学した事になってるね〜」
「って言うかこれ柚菜さんの好きなバンドの捩りじゃない?」
「ええ。そうよ。素晴らしい人材を輩出しそうな名前でしょ?」
「まあ奇抜な感性は持ちそうですよね……」
そう言い苦笑する真子。どうやら柚菜お気に入りのバンド“遺伝子組替人間集団”を捩ったらしい。学校と言うか怪しい宗教団体みたいな名前だな。と真子はなんとなく思う。岡崎達はさらにハイテンションになり、
「ふぅー! おっけーい! なんとか学園の美子ちゃんと千佳子ちゃんねっ。よろしくっふぅー!!」
「よろしくー!!」
「チョリーッス!!」
「うん。よろしくねー」
「あは〜。なんだか初めて同じ班になった時みたいだね〜」
「うん。合コンっていうか普通に教室にいるみたいだよね。まあ実際そうなんだけどさ」
千佳子の意見に同感する真子。確かにこうして自己紹介紛いの事をすると、千佳子達と初めて一緒の班になった事を思い出す。あの時はいきなり岡崎が下ネタ言い出して大変だったな。と真子は思い出し苦笑。岡崎達はノリノリで、
「おーし。じゃあ次は俺達も自己紹介しちゃおうかな〜」
「おうっ! リーダー言ったれ! 言ったれ!」
「イカした一発を頼みまっすわ!」
「ふ。任せておけ」
そう言い気取った笑顔を見せる岡崎。立ち上がり一呼吸置く。そしてキリっとした表情で、
「美咲高校一年の岡崎蓮弥。身長175。アソコもデカイです!」
「また下ネタだった!!」
性懲りもなく以前と同じような自己紹介をした岡崎。そこで実は指を組みながら貫禄ある表情で、
「素晴らしい。自己紹介からの下ネタ。彼は天才だよ。柚菜。彼に100Ptをあげてくれ」
「ええ。私は不快だったからその後にマイナス100Ptしておくわ」
いきなり採点を始める二人。よく解らないが加点式でモテ力を測るらしい。そして今のは実的にはかなりの高評価のようだ。すると千佳子が純粋無垢な笑顔を浮かべて、
「あは〜。岡崎君。アソコってどこ?」
どうやら本気でアソコが何なのか分かっていない様子だ。岡崎のクズ。千佳子の前で変な事を言いやがって〜。真子はそう思いながら岡崎に対してアイコンタクトで、
“岡崎。上手く誤摩化さないと、殺すから ”
“真木。任せておけ。ここで小洒落たジョークを噛ましてやるぜ”
そう目配せする岡崎。そして自信満々に、
「そんなんどこってもちろんーーモロチンだ」
「小汚いジョーク出ちゃった!!」