「ぶ〜。私は絶対レミちゃん狙いだと思ったんだけどな〜」
「僕はミカも可愛いと思っているよ」
なんだ〜、といった様子で頬を膨らませるミカ。そんな彼女に対して輝希は優しく微笑みかける。それはこの一ヶ月で手に入れた知恵だった。正直この二人とまとも会話をしても拉致があかない。いつのまにか話がどんどん脱線してしまうのだ。ならいっそ、と思いついたのがこの作戦。相手の予想だにしない発言で先に場をかき回す→そのまま話の主導権を握るというプラン、もう君達に振り回されるばっかのぼくじゃないぞ、という意思表明だった。だが、
「やめて下さい。気持ち悪い気持ち悪い。ほんとやめて下さい」
顔を真っ青にしてしきりに拒絶するミカ。その表情はどう考えても演技には見えない。もっと照れるとかそういうのを期待していただけに、それは予想以上の反応だった。だが負けじと輝希は笑顔を崩さぬまま、
「……そんなに嫌かい?」
「増田さんはやさしいし何でも言う事を聞いてくれるので好きですけど、男性として考えると……催すものがあります」
「ごめん。もうやめるから。ごめん。だから絶対吐かないでね」
うっぷと言いながら口元を手で押さえるミカ。まさかここまで拒絶されるとは。彼女の反応があまりにもだったために周囲の人も『おい、あいつ女泣かせてやがるぜ』『あんな可愛い娘を〜? 最低だなあいつ』と呟き輝希に批難を浴びせている。ミカを黙らせる必殺技を取得したが、あまり使わない方がいいなと思う輝希だった。
「まあそう落ち込むな。君はその蛍とやらが好きなのだろう。堂々と二股をかけようとするのはよくないぞ」
「いや、まあ別に蛍とも付き合っているわけじゃないけど……というか今のは冗談だからね。気にしないで」
「そうか。君は冗談で人にそんな事を言うのか。覚えておこう」
「増田さいて〜」
二人して輝希をバッシング。ミカは珍しく増田と呼び捨てにして、まだ優れない顔色をしながら手を上げ抗議している。やはり慣れない事を言うものではない。どんどん事態は面倒になっていく。
「ところで、その蛍はどんな女性なんだ? 詳しく教えてくれ」
「えっ、別にいいけど、どうして?」
レミが思いの外興味津々だったので思わずその理由を聞いてしまう。すると、
「いやそれと正反対にするから。増田のストライクゾーンから完全圏外になるために知りたいんだ」
「さいですか」
聞くんじゃなかった。
「えっと、そうだな」
とは言えどんな子と聞かれてどう答えればいいのか。ずっと一緒だったのであまり深く考えた事はないから、とにかく居心地の良い一緒にいて安心できる少女。というのが正直な感想だった。とりあえず見た目とおおまかな性格を答えればいいのだろうか。そう思い、
「一言で言うとボーイッシュな子なんだよね。髪はミカよりももっと短い前下がり? のショートカットでさ、」
てくてく。語りながら歩く輝希。あまり説明が上手な方ではないので言葉を探すのに夢中になっている。だから彼は気付かなかった。こちらをジッと見つめる視線に。
「顔もそれが似合う少年顔でさ、で目はレミよりちょっとキツい感じのつり目。服も意識してるのかそういう感じのが多くてさ。スカートなんてこの前初めて見たぐらいなんだ。生まれて初めてだよ?」
しかし美少女二人を連れている輝希を見つめる者達などその場には何人もいた。が、それとは違う視線が一つだけあったのだ。その思いは羨望、嫉妬、興味、といった他のギャラリーが浮かべるものとは違うもの。でもそれは肝心の彼にはずっと届かなくて。
「丁度あんな感じの人ですよね?」
とレミはそこまで聞いて目の前を指差した。群衆の中で一人だけ立ち止まっている少女をだ。その子はまるで輝希達が来るのを待っているようでもあった。そしてその子はまるで今言った言葉で構成されたような子で、
「そうそう丁度こんな感じの」
「輝、だよね? 今帰りなの?」
「……」
ミカよりもっとスッキリした前下がりショートカット、レミより細い奥二重な瞳にそれがしっくりくる少年顔、血を吐いたクマみたいなキャラがプリントされたパンクなTシャツ、紺のボーイフレンドデニム、まるでいつも見慣れている様な赤のスニーカー。すごいやレミさん、ホントこんな感じだよ。
てか本人じゃん。
「あ、あの蛍、これはだよ、これは」
まさかの本人登場でした。慌てて言葉を紡ごうとする輝希。だが声は上手く発せず、脳は緊急事態に対して全く約に立たなかった。とりあえずこの二人について説明しなければ。輝希はすぐさまそう思ったのだが、彼はバッ、バッとレミとミカを交互に見る事しか出来ず上手い言い訳が全く思い浮かばない。
「ほうこれが蛍か」