「なんです? 突然。蛍って誰ですか?」
彼の独り言に反応したのは右隣にいたミカだった。彼は奇麗な顔を近づけて輝希を見上げる。輝希は今から言う事に対してちょっと気恥ずかしくなりながら、
「いや僕に幼なじみがいるのは、わかるよね。何回か見てると思うけど」
とは言えレミとミカが天使状態になっているにしか会っていないので、蛍の方は二人をしらないのだが。
「幼なじみ。アニメやゲームによく登場する人間だな」
そこでレミは会話に参加して来た。おそらく二次元の話だと思い食いついてきたのだろう。しかし幼なじみは別にそこ限定のものではない。輝希はそんな誤解を解くように、
「いやそんな創作上だけのものじゃないから。小さな頃に仲が良ければそれは幼なじみだよ。現実でもね」
小さな頃に。そうは言ったが輝希と蛍は小さな頃からずっと仲良しだ。だが人に教える言葉の意味としてはそちらの方が正しいだろう。輝希の言葉を聞きレミは頷きながら、
「ふむ、小さな頃か……じゃあ私にとっては“小林”の事だな」
「……うん、多分それだと思う……小林さんが誰なのかわからないけど」
誰だよ小林。しかし賢いレミの事だ。輝希の言葉を聞いた上でそう判断したのなら、その小林で間違いないだろう。やったな小林、こんな美少女の幼なじみだなんて。そこでミカは脱線気味の話を元に戻すかのように、
「で、その小林がどうしたんです?」
「うむ、小林はだな、本当に使えない奴で何をやってもーー」
「あれ? 僕の話を聞いてくれるんじゃなかったの?」
なぜか小林の話にすり替わってしまった。まあ蛍の事を話すのは少し恥ずかしかったのでどちらでも良かったのだが。ミカは可愛く舌を出してしまったという様子で、
「あ、間違えました。てへ。でその蛍さんがどうしたんですか?」
「いやまあとにかく……こんなところを蛍に見られたら誤解されるなぁ、って思ってさ」
「誤解? 何をです?」
「いや、だって傍目から見たら二人の美少女連れな訳でしょ? すると、ほら」
「ああ性犯罪の匂いがしますもんね」
「発想がいきすぎだよ……もっと普通にさ、彼女とかと間違われそうでしょ?」
言葉が上手く伝わらないので、そのまま口に出す輝希。なんだか自意識過剰な事を言っている気がして顔が赤くなるが、依然ミカには言わんとしている事が伝わっていない。天使にはそういう感覚はないのかもしれない。とも彼は思ったが、
「ほう。誤解されては困る、か……つまり増田のマスターよ」
といってニヤニヤとレミの方は笑っていた。そして確信めいた様子で、
「君はその子が好きなんだろ?」
なんて言葉を口にする。長年誤摩化してた輝希の感情をあっさり口にするものだから、彼はボッと顔が赤くなる。だがその通りだ。僕、増田輝希は彼女、赤土蛍が好きだ。大好きだ、子供の頃からずっと。それは紛れもない事実だ。輝希は別に本人に告白するわけでもないのだが口にするのがやはり恥ずかしく、そっぽを向き頬をポリポリとかきながら、
「ああ……好き、だよ」
と素直な気持ちを口にした。しかしそれを聞いたレミの反応は意外なもので、輝希の発言をからかう事もなくレミはうっすらと笑いながら、
「ふふ、それを聞いて安心した」
「安心? なんで?」
とさらに予想外の事を言うのだ。もしかして僕の恋愛面を心配してくれていたのかな、と思ったが、
「ああ、これで安心して寝る事ができるよ。正直いつ襲われるかとハラハラしていたからな。好きな子がいるならさすがに増田もそんな事はしないだろ」
「うん。安心してくれ。元からそのつもりはない」
やはり彼女はいつも通りだった。この子はそんな心配なんてしない。むしろ自分の身だけを心配していた。というか僕はこの二人が来てから、二人をベッドに寝かせて僕は床に布団を敷いて寝ているのだ。そんな風に肩身の狭い思いをしていたのにまさか感謝どころかそんな誤解をされていたなんて……酷いな。