「じゃあこの人がご主人のーー」
「ちょっとやめて。今変な事言わないで。思い出したようにご主人とかやめて」
輝希がモタモタしていたら爆弾達は勝手に動き出した。まるで事態を悪化させる為にわざといっているのかご主人とか言い始める。慌てて止めたがもう遅い、いやこの二人を連れて蛍と会った時点で手遅れだったのかも知れないのだが。
「ふーん。輝って女の子の知り合いいたんだ」
と言ってツンとした目をさらに細めてこちらを見る蛍。ついでに言うと美少女? である蛍も増えたために輝希はさらに視線を集めてしまった。ただならぬ雰囲気を察して中には足を止めて輝希達を見守る人までごく少数だがいる始末。「あいつ女の子3人と何してんだ。もしかして修羅場?」「あのショートカットの子好みだな」「わかる一番絡みやすそうだよな。他二人はレベル高すぎ」「オレ、あの男けっこう可愛い顔してると思う。あの娘等が取り合うのもわかるわ」『え?』との声も。敵だ。全て敵だ。この東通り全部の人が僕の敵なんだ。
「しかも二人とも可愛いね」
「いや蛍ほどではないですから」
「いまそういうのいらないよ」
「すみません」
冷たくあしらわれた輝希のジョーク。まあ本音も入っているのだが。とにかく今の彼女には通じないという事だけは確かだった。
「で、どういう関係なの?」
「どう、どうって」
グイッと眼前まで詰め寄ってくる蛍。ふわっと良い匂いがしたが今はそれどころではい。鬼の様な形相で迫る彼女からただ顔を背けることしか出来ない輝希。その顔をちらっと横目で見ながら彼は思う。彼女、蛍がなぜこんなに不機嫌なのかと。確かに今まで彼は女の子の知り合いを、一緒に出かける程仲良くなるのを避けてはいた。だから彼女達が何者かと気になるのはわかる。しかし、しかしだ。普段の彼女ならこんなにも前のめりで問いつめてくるか、と輝希は考える。別に輝希がレミとミカの存在をひた隠しにしていたのは彼女が怒るからと思ったからではない。
彼女に対する裏切りだと考えたからだ。
なので彼女がいきなりここまで怒を露にするのは予想外だったのだ。きっと普段の彼女ならクライストの新しいカップリングを見つけた悪ガキのような、そんな冷やかしを輝希に言ってくるはずだった。そのぐらい余裕のある表情を見せるはずだ。しかし今の彼女は少し変だった。これは幼なじみにしか分からない微かなものなんだろうが。
するとそこで防戦一方の空気を破ったのは意外にもレミだった。
彼女は全く空気の読めない落ち着いた偉そうな態度で、
「まあ、あれだよ。蛍とやらとりあえず私の話を聞いてくれ」
「はい? アンタが説明してくれるの?」
「うむ」
いきなりアンタ呼ばわりして敵意まるだしの蛍。しかしレミは気にした様子もなく、うむ、と短く言って頷く。いや、うむって。こいつに説明させてはまずいだろ。でもミカよりは断然ましか、と輝希は思う。ちなみにミカはもうこのやりとりに飽きて、目先のクレープ屋でバナナクレープを注文している。さすがの自由さだった。
「ね、ねえ変な事言わないでよ」
「ふ、まかせろ」
蛍に聞こえないように小さく耳打ちする輝希。だがこの態度も気に食わなかったらしく、短くチッと舌打ちされた。しかし今はこの賢いレミ先生に任せるしかない。輝希は自信満々な彼女を蛍の前へと送り出した。
「で、なんなのよ?」
高慢対暴慢。その闘いの火ぶたは今切って落とされた。ちなみに天然はバナナクレープを食べながらこっちに戻って来たがそれはどうでもいい。レミは全く態度を崩す事なく腕組みをしながら、
「ふむ、私達はな」
「切っても切れぬ関係で現在増田にお世話になっている身だ。ちなみにベッドの優先権は私達にある」
訳:切っても切れぬ関係=天使とその担当する魂を持つ人間。だから僕の魂を持ち帰るまでは天界に帰れず、関係を切りたくても切れない。ベッドの優先権云々=それいらなくない? 火に油注いでいるだけじゃん。
と彼なりに今の発言を解釈する。まあ間違えてはいない。確かにその通りではある。だが人選を間違えてしまった。彼女ならミカと違い空気も読めると信じたのが大失敗。おそらく天界とか天使とか言えないからそう言う言い回しになったのだろうが、普段のレミならもっと上手く伝える事が出来るはずだった。だから輝希は思う。この人わざとやったな、と。