なおも疑いを緩めないミカ。まあ、でも店内を少し回ればそんな生物がいない事ぐらいわかるだろう。
「ホントだって。さあ入り口にずっといたって邪魔だろ? 早く入ろう」
「まあ、そうですね……私も腹を括ります」
グっと拳を握りしめるミカ。丸腰だと電鬼屋というのはそこまで危険なのか。
「よし、じゃあそうだな」
ぐるっと店内上の案内を見渡す輝希。家電といってもその用途によって種類も様々。いざとなると何を買っていいのやら。とりあえずあっても困らない物、実用的な物がいいな。と思い輝希はとりあえず、
「掃除機でも見るか」
「おうふ、いきなりそれ行きますか」
おうふ。と奇妙な声と共に鳩が豆鉄砲を食らった様な表情をするミカ。
「え? 何かマズかった?」
風除室から中々出てこないミカを振り返りながら話す輝希。ミカはごくり、と唾を飲んで、
「大丈夫です。指の1、2本は覚悟出来てますから」
「君はどこに向かうつもりだ」
まるで戦場に向かう戦士のような顔付きで一歩踏み出すミカ。とても店内の風除室から出て来たとは思えない雰囲気だ。
「うん、掃除機は後にしよう。先に別の物にしようか」
こんな強張った顔のミカと見ても面白くないだろうな。輝希は別の製品から見て回る事にした。
「そうですか、まあ、増田さんがそういうのなら」
そう言いミカは少し安堵したような顔を見せる。だがまだ油断は出来ない。次はどんな強者が来るやら。緊張した面持ちで待っていると、
「じゃあ、扇風機とかの方から回っていこうか」
「せいっ、手堅い所で来ましたね」
「せい? あ、うん? で、駄目なの?」
さっきからミカのテンションが安定しなくて絡み辛いな。戸惑う輝希をよそにミカは、
「いえ駄目なんて言ってないです。むしろ燃えます。今日こそは奴に一泡ふかせてやりますよ。そして教えてあげますよ。やつらは所詮下伝、どちらが上かって事をねっ」
「うん……なんかうるさいしいいや」
過去に扇風機、いや扇風鬼、とミカは何かあったのだろうか。メラメラと闘志を燃やし何か呟いてる。まあいざ売り場についてもプロペラの付いた機械が涼しい風を起こしているだけで、ミカが敵対心を抱くその鬼とやらはいないのだが。とはいえミカの様子がおかしいのでこれも後回し。次に輝希が目をつけたのは、
「じゃあ除湿器」
「増田さん、マスクですよマスク。さすがにこれはアカンやつです。せめて口を保護出来る物を下さい」
「……乾燥機」
「ちょっ、うそですよね、このまま行く気ですか? 正気を疑いますよっ」
「……」
なんか後半になるほど行く事さえ拒み始めている気が……。うん。よし、もうこれはあれだな。
「もう僕一人で見てくるわ」
「そうですねっ! やっぱプレゼントってのは自分で選んでなんぼです! がんばれ増田さん!」
ガッツポーズと共に全身に生気が戻った気さえするミカ。目も先程に比べてキラキラと輝いている。
「なんか急に元気になったよね? そんなに嫌だった?」
「いえいえ、これでやっと面倒くさい役から解放された。とは思ってますけど元気になれたのは自分の力です! ビバ自分! 素晴らしい!」
……。もはや地の文で解説する事も面倒臭くなってきた輝希。なんだよ、ビバ自分て。
「まあよくわかんないけど……とにかく僕一人で見てくるね」
「はい! じゃあ私は外で何か食べてくるのでお金下さい!」
両手の平を勢いよく差し出すミカ。このままじゃただ買い食いしに来ただけだな、こいつ。別にそれでも構わないがこれでは普段と変わらない気がする。せっかく初めて二人で出かけたのだし、と輝希は考えて、
「……やっぱ君も来なさい。なんか僕が損した気になるから」